2016年01月21日

早川書房の1階で、70年分の愛を叫ぶ

この世で一番幸せなのはどんなときだと思う?
もちろん、誰にでも共通したものもあれば、それぞれの人ごとに、もしくはその時どきで、違うときもあるでしょう。
もし今わたしがそう問われたら、間違いなくこう答えます。
おいしいものを食べながら、心ゆくまで本の世界に没頭できる、喫茶店にいるときだ、と!

さてさて、ごきげんよう、こうやです。
昨年11月から始まり、期間延長して今月末まで開催中の期間限定カフェに行ってきました。
このブログでも何度か出てきているかもしれません。東京は神田の早川書房1階、カフェ・クリスティで行われている、「早川書房70周年記念カフェ」です。

戦後間もない1945年8月に誕生した早川書房は、以来良質なミステリやSFを中心に(一応主観)、数多くの作品を世に送り出してきました。
特に翻訳!早川書房抜きに、日本の近代翻訳史は語れないだろうと、個人的には思っています。
わたしは自他共に認めるほど講談社テリトリーで育った人間ですが、生きていれば当然のことながら、早川書房にも多大なる恩恵を受けてきました。
文庫本サイズを愛し抜くわたしにとって、海外SFや黄金時代のミステリの多くを、微かな不安感と興奮を覚えさせるトールサイズを始めとしたハヤカワ文庫経由で身に入れてきたと言っても過言ではありません。
そんな早川書房が、70周年!記念カフェをやっている!しかも、味には絶大な信頼を置いている、カフェ・クリスティで!
いったい何が、わたしを抑えるというのでしょう。
もちろんスキップで向かいましたとも。
とはいえ、土曜日は早仕舞いで日曜定休のこのお店。平日のみ22時閉店とのことで、数度目の正直でお邪魔しました。
直前にがんばったので、ご褒美も兼ねて、ね。
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店内は相変わらず素っ気ないですが、通路に面したガラス窓いっぱいに早川書房70年史が貼り出され、年表を貼った空きスペースには代表作(たぶん装幀家さんメインで選んでる)の表紙がびっしり。
そしてガラス以外の壁中に、20年前の、早川書房50周年を記念したきらめくようなビッグネームからの祝辞が貼られていました。
うわっほーい!
なんて贅沢な空間なんだ!
興味が偏りすぎていて門外漢なわたしですら知っているビッグネームが次から次へ……もう手に取った、もしくはまだ目にしたこともない装幀があちらこちらに……
他にお客さんがいないのを良いことに、ヨダレを隠して隅から隅までじっくり観察。特に祝辞は、いずれも個性あふれる書き方や文字に微笑みを隠しきれません。
そうしてぐるりと観察していたら、粋な計らいが。
入り口近くの陳列台に積み上げられた木箱。その中に、ハヤカワ文庫が並んでいます。なんと、ブックカフェ代わりに、好きな本をお手にとってお読みくださいとのこと!
きゃほー!
木箱の前にそっと置かれている貴重なポケットミステリや、音を想像するだけでうっとりしてしまうパラフィン紙の装幀もそこそこに、背表紙をじっくり吟味することしばし。
読みきれなかったらお持ち帰りなんて期待できないし(そもそもご迷惑)かといって気になる長編を読み始めたら止まらなくなること請け合い。
ならば、と、ずっと気になりつつも手に取る機会のなかったミステリを選びました。短編集なので途中まででも読んだ気になれそうだし。という判断もありましたの。

メニューもくすりとできるものばかりで、にやけ顏を抑えながら注文。
まずは、はい、ごめんなさい。マグカップ見たさに頼みました。紅茶です。ただの紅茶です。アルコールを自重しようという思いもあってね。それにわたしほら一応紅茶好きでもあるわけだし。なんでこんなに言い訳ばかりなのか自分でも不思議に思いつつのオーダーでした。
注文してから店中うろついて、帰り際にドリンクカウンターをちらりと見たら、お店の方が真剣な眼差しで茶漉し片手にマグカップへ注いでいました。
茶葉で淹れてる、というだけで、うれしくなってしまう、最近すっかり面倒くさがり野郎です。
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この紅茶が、すごくおいしかった。
熱くておいしい、冷めてもおいしい、何より読書の邪魔にならない!
活字から目を離さずに手探りで取っ手を掴んで、ごくり。喉を潤す安らぎとおいしさに微かに微笑んで、活字の世界へ没頭していく……
そんな、本読みにとっての理想の紅茶でした。こういうのが欲しいんだよお、これこそがわたしの考える究極の紅茶の在り方のひとつなんだよお……

そしてもうひとつ、注文したのは「スペンサー風ポークライス」です。わーいがっつりメニュー。
パーカーを読んだことのない残念子ですが、せっかくなのでメインメニューいきたいものね?
チーズトマトソースのかかったハンバーグみたいな存在感のポークソテーと、半熟の目玉焼き。このわたしがぺろりといけちゃう甘さのにんじんを含む温野菜と、味のしっかりついた炊き込みピラフ。
大人のお子様ランチとでも呼びたくなるような、うれしくなっちゃうワンプレートでした。
それに、お野菜ごろごろチャウダーまでついてくるの!おや、とても見覚えのあるカップ……笑
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もうねーこのポークライスがえらいおいしくてねーやんなっちゃうのーもー
止まりませんでした。味は濃すぎず、お上品な方ではなくおいしく力がつく感じ。なんていうの?ハードボイルドな探偵や、疲れた目をした警察官が、事件解決のエネルギー補給に「うまい飯を出す馴染みの店」でかきこんでそうなおいしさでした。ほんとかな?答え合わせのために『初秋』を読まなきゃ。笑
このわたしが分厚い大きな豚肉を平らげるなんて、ご存知のみなさまには驚きもあるかもしれません。新年から肉三昧なので慣れていたこともあるかもしれませんが、何より、おいしかったのよ。
あと個人的にはスープがツボすぎました。すくったスプーンごと火傷しそうなほど熱々で出てきて、とってもおいしいの。もしかしてわたし、早川書房に勤めていたら毎日このスープをお昼にいただけてたのかもしれない?う、ちょっと後悔かも……

なーんてことを、ひたすら文庫本片手に考えていたわけです。
そうしたら、お店の方が、「22時まで大丈夫だから、好きなだけ読んでから帰りな!」と太っ腹なことをおっしゃってくださり……とっくに食べ終わり、新たにお客さんが入ってくる気配もなく、本当ならば早仕舞いできそうなところ、ずっとこんな客をずっと居座らせておいてくださったのです。申し訳ないですが遠慮なくお言葉に甘えますだって読みたいもの!

おかげさまで読み終われました。気になっていた安楽椅子探偵のひとり、その名は不明のママが出てくるこのシリーズ。
ジェイムズ・ヤッフェ『ママは何でも知っている』です。
毎週金曜日の夜、ブロンクスでママの絶品料理を囲んでのディナーが恒例のデイヴィス。警官の彼が最新の事件について話し始めると、ママが不可解に思える質問をいくつかして、そしてその質問が的外れでなかったことを示すかのようにあっさりと真相を解き明かしていく……というのが主な流れ。
ここに出てくるディナーがまずもってべらぼうにおいしそうですし、切れ味鋭いママがいつまで経っても子ども扱いするデイヴィスや、かろうじて地獄絵図にならない嫁姑問題、そしてもうひとつの恋愛模様など、人間関係だけでも超絶楽しめます。
ある事件に出てくる人物を、身近な隣人や親戚に喩えちゃうのはミス・マープルでもお馴染みですが、やはり人間は驚くほど様式的なのだと断じてしまっていいかもしれない!
鮮やかな手腕に惚れ惚れすること必至です。
ああ、このシリーズはチェックしておかなきゃ!長編も気になりすぎるわ、読んでみたいー!

ラストオーダー少し過ぎには無事読み終わり、お店の方に感謝を述べて帰路に着きました。
早川書房の年表の写しや、未熟者のわたしにはさっぱり解けないクイズ、果てはハヤカワ作品の表紙を使ったコースターまでいただき、ほくほく顏。
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今回はお腹と気分の都合もあって見送り、結果もう何回も食べそびれているので、今月中にぜひ再訪して注文したいものです。そう、「パンケーキセット」を!
そのときには、自分のハヤカワ文庫を持参しても良いなぁ♪

しかしあれですね。
こうなってくると、昨年ハヤカワ文庫70周年記念フェアの文庫をあれだけ(思い出すだに震えるほど)買いあさったのに、トールサイズ対応のハヤカワ文庫ブックカバー抽選に申し込みそびれたのが口惜しくてなりません。応募券何枚あったんだろう……しょぼん。
ロゴ散りばめたデザインがカッコ良くて欲しかったのになぁ。自分のばかー!
それはともかくも、わたしにたくさんの出会いを与えてくれる本に、そして作者・訳者の方を始め出版社や印刷所や書店員やすべての関わる方々に感謝の気持ちを込めまして。
今日もわたしは本を買い、そして本をを読んでいくのです。
posted by こうや at 00:20| 東京 ☀| Comment(0) | その他喫茶 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする